何を達成したいの?
自分の強みや経験値が把握できたところで、本格的にお店・事業を立ち上げるための基礎を考えていきましょう。ここをおろそかにすると、必ず手痛いしっぺ返しを喰らうことになります。いつでも基本に戻って見つめ直せるように、しっかり確立していきましょう。
お店の目的
新たにお店を開き、事業を軌道に乗せて行くには、明確な目的が必要です。企業理念やミッションと言われるものです。だからといって、そこまで大げさでなくても良いのです。
目的というと「美味しい料理を出したい」「居心地の良いカフェにしたい」「極上のリラックスを提供したい」などが考えられますが、分かりやすく言うと「〜をしたい!」ということに完結します。
しかし、これだけでは失敗は目に見えています。なぜなら圧倒的に「顧客視点」が欠けているからです。自分がやりたいことやできることと、世間が求めていることには明らかに差があります。
近年の大手家電メーカーが良い例です。彼らは「こんな技術がある」「こんな機能があれば便利だ」「こんな風にオシャレなデザインが良い」といって、経済が発展途中のアジア圏で大量に家電を販売しました。その結果、大幅な赤字を計上したのです。多く聞かれたのが、「そんな細かい技術より、叩いても壊れない丈夫なテレビや、内容量の大きい冷蔵庫がほしい」といった声でした。彼らは本当に、ターゲットとなるアジア圏の人々の日々の「課題」を解決しようとしていたのでしょうか?
「スターバックス」の場合、
とあります。簡単に紐解いていきますと、「コーヒーを通して一人ひとりのお客様と向き合い、コミュニケーションを通して豊かなお店と地域をつくりあげよう」ということになると思います。
上の図を見て下さい。青で囲われたところは、「自分がやりたいことやできること」です。言い換えれば「自分視点」の発想です。緑の円は「お客様の欲求や課題の解決」であり、「顧客視点」の発想です。赤の部分は、事業として成立するための「利益」を生む範囲になります。この3つの円が重なった場所だけが、「自分の事業」として成立する範囲になります。どれかひとつでも欠ければ、事業として成立するのは難しいでしょう。新規事業を発想する際には、この3つの視点を忘れないでください。
なぜこんな面倒なことをしなくてはならないのか。それはお店を開業したあと、日々の販売や接客を続けていると「このやり方で良いのか?」といった疑問が出てくるからです。また、1人でも従業員を雇った場合、「何を大事にすれば良いのか」というお店の方向性を伝えなければなりません。その方向性こそがお店の「目的」であり、何物にも代えることのできない「存在理由」なのです。
お店の目標
お店を開業するための目的が定まったら、次は目標です。いわゆる「ビジョン」と言われるものです。
時々勘違いされる人がいますが、お店を開くのはあくまで目的を達成するための「スタート」なのです。お店の経営が始まると、今度は事業として「どこに向かっていくのか」が大事になります。「目標」とは、これをどのくらいの「スピード」でどのくらいの「規模や地位」で確立するかを決めるものです。
分かりやすく言うと、「3年以内に地域一番の繁盛店にする」「5年以内に10店舗開く」「5年で世界最高のサービスを提供する店になる」などです。ここではハッキリと数字を使って作って下さい。何年以内や年商何万円などです。
モノからコトへ
お店を開業する際、気を付けなければいけない最大事項は「顧客視点」ということはすでにお分かりだと思いますが、実際にはどういうことに気を付けなければならないのでしょうか?
実例をお話します。先日訪問した、友人が経営しているケーキショップでの会話です。
私「良いお店作ったね!」
友人F「もっと売れると良いんだけどね」
私「お客さんは何の目的でケーキを買ってるの?」
友人F「何かの記念日とか特別な時じゃないかな?」
私「そうなんだよね。ケーキ屋さんから見たらケーキが主体だけど、買うお客さんから見たら、大事なのは特別な人と、特別な時間を過ごすことなんだよ」
友人F「ケーキ自体は二の次ってこと?」
私「そういう意味じゃないんだ。少なくとも現在、ここのケーキを買ってくれるお客さんは、このケーキと一緒に大切な時間を過ごそうと思っている。だから必要なのは、どうすればその時間をもっと演出できるかなんだよ」
こういった内容の会話をしばらく続けました。友人Fは有能ですので、すぐに理解し行動に移しました。しばらくして再びお店に顔を出すと、お店が少し変化していました。
扉を開けてお店に入ると、まるで宝石箱を空けたような感覚になりました。店内は素敵なインテリアで「ワクワク感」が演出されていて、お客様の期待感を上手く盛り上げています。来店時の視線の誘導にも気を配っていて、それはまるでひとつのストーリーのようです。外装はお菓子の家を彷彿とさせるデザイン、そこから扉に手を掛け店内に入って行くと、可愛らしい装飾品に目を引かれます。天井を見ると「お菓子の家」にいるような感覚にさせる様にデザインされていて、ショーケース周りにある洒落た小物や、カウンター内に配置された、お店の歴史を感じさせるモノトーンの写真があります。そしてついには、ショーケースの中にある色とりどりのケーキに目を奪われるのです。
彼が先日の会話をしっかりと気に掛けて行動してくれたのが、手に取るように分かりました。売り上げの金額までは把握していませんが、少なからず業績が向上しているに違いありません。私が滞在している間の来客数が確実に増えていましたから。
このような実例が示しているのは、お客様の「真の価値」とは何かということです。
美味しい料理を食べるその先に期待していることは?
綺麗なヘアスタイルになってどう見られたいのか?
美しいネイルにすることで何を求めているのか?
私たちが提供する技術とサービスは、常にお客様の真の価値観を理解していなければなりません。